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ばんちょのへいぼんが




「ばんちょ、ちょっといいですか」

突然だが俺は怒っている。怒りでどうにかなってんじゃないかと思うくらいに俺は怒っている。
いつもヘラヘラしてる俺がむすっとしているからかそれとも声のせいか、ばんちょこと田川壱は引き気味に返事をする。
いつもは周りで茶化してくるばんちょの友人さんたちも今は目をまんまるく開いて口を閉ざしている。
あの海里先輩ですら驚いた様子で隣の俊太郎にヒソヒソとなにやら聞いている。

「た、拓馬…なんか怒って」
「うるさい」

焦るばんちょの言葉を遮ってずんずんと歩いていく。
屋上を出て適当に人気のなさそうな場所を目指す。
この時間なら視聴覚室辺りが穴場だろう。
目的地を決めて進んでいくと腕を引いていたはずのばんちょがいつの間にか真横に立っている。

「た、拓馬…」
「なんですか」
「なん、でもない……」

俺の雰囲気に気圧されたのかばんちょは口を閉ざした。滲み出る空気は重い。
たどり着いた視聴覚室の扉を強引に開けて中へと入る。相変わらずばんちょは挙動不審だ。当然だ。俺は今まで怒ったことなんてほとんどない。
くるりと振り返るとびくっと一瞬体をはねさせるばんちょ。その体の横に手をついて、所謂壁ドンの体制になる。

「これ、どういうことですか」

昨日とある女子に見せてもらったラインの内容だ。ちなみに「巨乳なら田川壱くんとセックスできるらしい」という噂があって、そのソースとして流れてるばんちょのアカウントから流れた「ないよりはあった方がいい」という発言が火に油を注いでいるらしい。
俺はそれを聞いて正直まあ俺もないよりはあった方がいいと思うと思った。それは確かだ。間違いじゃない。いや、貧乳はステータスだし最高だけど。
問題はそのあと。その女子たちが俺の話も流れてるよと善意で教えてくれた内容が肝心なのだ。
その内容というのが「香川拓馬はおっぱいの大きさ以前になくない?男じゃん」ときて「いやあ、あれは相当アッチがいいんだろう」なんてめちゃくちゃに書かれてた。そこまではいつものことだから気にしてなかったんだけど、問題は「実は付き合ってるのがゲームとか?ありえそー」なんて書かれてて俺は目を見開いた。
ゲームか、そういえばそんな可能性、考えたことなかったな。なんて思いつつ、ふつふつと湧き上がる怒りに今に至る。

「た、拓馬、あの、それは」
「俺は!」

口を開いて訂正しようとするばんちょの言葉を遮って俺は自分でも驚くくらい大きくてはっきりとした声を出した。

「ばんちょがこんな風にゲームで人の心弄ぶような、そんな人だと思われるのがムカつきます。こんなに俺のこと好きなのにゲームかもなんて言われてるのがほんと、ムカつく」
「拓馬…」

むすっとした顔のままばんちょから顔を逸らすと俺は途端に自分の発言が恥ずかしくなってばんちょから距離を取る。
少しの沈黙が落ちる。恥ずかしさで死にそうだ。

「…抹茶プリン…こんなこと周りに言わせてる罰ですよ。食べたいんで作ってください」

ぷんっと首を横に振ってそういえばばんちょは任せろと破顔した。




***オマケの会話文***
後日の話(拓馬+海里+俊太郎)

「え?ばんちょのライン相手って霜月先輩なんですか?」
「そーだよ。ちょっと後輩たちが壱は巨乳派なのか貧乳派なのか知りたいってうるさくて仕方なかったから拓馬クンと出会う前の壱のラインのスクショ残ってたやつ送ってやったのー」
「海里先輩個人情報って知ってます?」
「知ってるよぅ!俊太郎のことは誰にも話さないから安心して!」
「そうじゃなくて」
「じゃあ。霜月先輩が送ったスクショを誰かが女の子に漏らして噂が変な方向に回ったわけですか」
「あ、もう気にしなくても大丈夫だよ。壱が漏らした奴シメてたし」
「それは大丈夫なんですか」
「ところで拓馬は何食べてるの」
「ばんちょお手製抹茶プリンさくらんぼ付き」
海&俊((器用すぎるなあ…))

END


(20.06.01〜)






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